2021.10.13

49年ぶりに名勝負ふたたび

今夜の川崎ナイター競馬に、南関東ファンがザワついています。そのレースは2歳重賞「鎌倉記念」なのですが、ここまで無敗街道を突っ走っている4戦4勝のノブレスノアと3戦3勝のママママカロニの直接対決が早くも見られます。古いファンは半世紀も前のレースを持ち出して目を細めます。それは競馬場も違えばレースも異なるのですが、1972年10月9日に大井競馬場で行われた2歳重賞「ゴールドジュニア」の懐かしくも今も鮮やかな思い出です。

その日は、デビュー以来まるで異星から飛来したように敵なしの3戦3勝“怪物”ハイセイコー、同じく3連勝後に父カブトシロー譲りの気まぐれ屋ぶりを露呈して初黒星を喫しましたが秘めるスピードは超一級品の“荒鷲”ゴールドイーグル、ファンの熱い視線は両雄だけに注がれます。しかし決着は案外とアッサリつきました。軽快に逃げるゴールドイーグルを追って、悠々と持ったままのハイセイコーが、ライバルを捉えるや一瞬で10馬身ちぎります。俗に言う「モノが違った」のでしょうか?怪物は怪物でも、この馬は「稀代の怪物」でした。

実は両雄は前走まで、ともに福永二三雄騎手が手綱を執っていた“因縁の対決”でもありました。福永騎手は日本競馬史上最高の天才ジョッキー福永洋一さんの実兄であり、その遺伝子を継ぐ福永祐一さんからは伯父にあたる競馬ファミリーの一員です。二者択一の大一番で怪物に乗ったのは、ごく自然な意思決定だったのでしょう。しかし「荒鷲」もタダモノではありませんでした。ハイセイコーが中央の舞台で華麗な脚光を浴びるのを横目に、宮崎生まれと最近の熊本産ヨカヨカのように地味な存在でしたが、慢性的な脚部難と闘いながら、南関東、紀三井寺、笠松、名古屋などを休養と流浪を繰り返し、最後は中央にたどり着くと、大阪杯とマイラーズCの両G2を圧勝する能力の高さを自ら証明しています。もしハイセイコーと同世代でなかったら?もし南関東ではなく他地域に入厩していたら?福永二三雄さんが乗り続けていたら?想像しても仕方のないことですが、フッと溜め息をつきたくなる切ない気分に覆われます。

“怪物”ハイセイコーと“荒鷲”ゴールドイーグルのガチンコ対決で半世紀を過ぎても、まだ記憶に新しい伝統の一戦「ゴールドジュニア」は現在まで受け継がれ、今年は2番手からゆっくりと抜け出したママママカロニが49年前のハイセイコーの勇姿を再現するように一瞬で9馬身突き放し、1200m1分11秒5とG3東京スプリントを勝ったリュウノユキナに並ぶ異次元時計で圧勝しています。人気デュオ・パフュームのヒット曲に発想を得た馬名のユニークさも傑出していますが、同世代では勝負にならない異次元のポテンシャルです。

対するノブレスノアは、プライベート種牡馬と自家繁殖牝馬の組み合わせで今売り出し中のエスティファームのオーナーブリーダー馬です。ブライアンズタイム系の父トーセンブライトというあたりが渋くて良いですね。血統的にも実績的にもダート適性に抜きん出ているんでしょうが、連戦連勝の先には中央移籍や海外遠征など壮大なプランが描かれているのでしょう。今夜は川崎がとても熱くなりそうです。