2021.10.05
凱旋門賞のハードル
今年の第100回凱旋門賞で世界をアッと言わせるジャイアントキリング(大物喰い)を成し遂げたトルカータータッソが、史上3頭目のドイツ調教馬による制覇だったというお話をしています。その背景として、名種牡馬アドラーフルークなどを生んだ名門シュレンダーハン牧場を中心としたドイツ血統の選択と淘汰の繰り返しによる地道な2400m適正へのアプローチが積み重ねられたのは忘れることができません。
さらにドイツ競馬の根幹を形成する番組編成も、非常に個性的で独自な発想を基に組み立てられています。ドイッチェダービー2400mを頂点に構築されたそれは、ダービー後もその延長として同じ2400m戦が3歳と古馬の混合G1が4連続で施行され、真のチャンピオンシップを争います。“強い馬同士が覇を競う舞台は2400mであるべき”という信念に近いものが感じられます。昨日もご紹介したように、伝統的に交流の盛んなイタリア競馬の2400mのビッグレースを加えれば、シーズンを通じて2400m以外の距離を走っている暇はありません。
これに対して日本の2400m級のG1レースは春のダービー(オークス)と秋のジャパンカップの二つだけ。といっても、特に日本のレース体系が際立って貧相というわけではありません。競馬発祥の地イギリスでも牡馬に出走機会がある2400mのG1はダービーとキングジョージ6世&クイーンエリザベスSの二つだけですし、牝馬限定にはオークスとヨークシャーオークス、シーズン最後を飾るブリティッシュ・フィリーズ&メアズSに限られます。アイルランドはダービー、オークスだけで、フランスに至ってはダービー、オークスともに、英愛との差別化を狙って距離2100mでおこなわれています。その代わり3歳のパリ大賞、古馬のサンクルー大賞が組まれていますが、一国単位のレース数では日本と大差はありません。
ただし、ヨーロッパは国境を越えた遠征が日常的です。日本でいえば、栗東所属馬がごく気軽に新潟や福島に出かけたり、美浦から小倉へ鼻歌交じりで飛んだり程度の感覚ですね。現に今年のパリ大賞はイギリスに本拠を置くゴドルフィンのハリケーンレーンが圧勝し、サンクルー大賞ではアイルランドから出かけたブルームがG1初勝利を飾りました。これくらいのことは日常茶飯事。コロナ禍が収束すれば交流は更に活発化することは間違いありません。ジャパン(J)ホースマンの悲願とされる凱旋門賞のテッペンによじ登るには、良く指摘される馬場適性もそうですが、2400mという世界共通のチャンピオンディスタンスに対する距離適性に磨きをかけるのも、避けては通れない関門でしょう。いろいろな角度から、そのことを考え続けたいと思う今年の凱旋門賞でした。