2021.10.01

唯一の恵量馬に追い風

凱旋門賞の馬券推理には、お国柄もあるでしょうし、そもそも人それぞれで多種多様なハードルを設定して考えを巡らせます。そのファクターは距離であったり、馬場状態であったり、負担重量であったり、実に多岐に及んで検討を迫られます。一例を上げれば、世界最高賞金レースに君臨するダートのサウジCと芝の春季頂上戦ドバイシーマクラシックを連勝した“二刀流”ミシュリフは、「2000mこそ最適」というジョン・ゴスデン師のジャッジで2400mの凱旋門賞を自重して、英チャンピオンSに向かうことになりました。距離適性ひとつにも最高峰レースともなれば、シビアにしてデリケートな判断と意思決定が求められるのでしょう。「この馬は長く良い脚を使うから凱旋門賞は合っている」といった類(たぐい)のアバウトな推測は通用しない世界のようです。

自然の起伏やウネリはそのまま取り入れて造成されているヨーロッパの多くの競馬場は、降雨による馬場渋化が常態化しており、良く整備された馬場に慣れている日本馬には困難を極めるハードルになっていると言われます。ヨーロッパでは無人の野を行くように、向かうところ敵なしのサドラーズウェルズやガリレオの血が、日本では全くと言っていいほど通用していないのも、馬場適性に関する逆説的証明かもしれません。しかし、ディープインパクトの血は、重たいはずのヨーロッパの馬場でも1頭や2頭にとどまらないG1馬を輩出しており、馬場適性は育成を含めて調教上のテーマなのだと日本のホースマンも気づかされ始めています。

巷間、凱旋門賞とは、3歳馬なかでも牝馬のために創られたレースと言われることも少なくありません。現時点も古牡馬59.5キロ・古牝馬58キロに対して3歳世代は牡馬56.5キロ・牝馬55キロの規定がほぼ100年間、微調整だけで温存されてきました。さて、今年は最終的には15頭立てになりそうですが、負担重量の恩典が与えられる3歳馬が8頭、それより3キロ重い斤量が課せられる古馬が7頭という内訳になっています。もっとも重い59.5キロを背負う古牡馬はドイツ馬トルカータータッソと日本馬ディープポンドの2頭だけにとどまり、残る5頭は58㌔を負担する本命候補のタルワナや日の丸代表クロノジェネシスなど牝馬ばかりという顔ぶれです。こうしたメンバー構成の世代的性別的なデコボコが凱旋門賞というレースの個性を物語ってはいないでしょうか?

こうした状況下、3歳馬は勢いに乗るゴドルフィン勢アダイヤー、ハリケーンレーンのクラシックコンビを筆頭に56.5キロで走れる牡馬陣が目立ちますが、“紅一点”スノーフォールは唯一55キロと出走馬中の最恵量が追い風にならないでしょうか?パリの週末は雨予報で、道悪競馬は避けられそうにもありません。しかし、重厚なコース設計で有名なエプソムの重馬場で、直線だけで16馬身半ちぎって見せたディープインパクト産駒の牝馬が、道悪を苦にするとも思えません。日本ホースマンの悲願は、この青い目のディープインパクト産駒が果たしてくれるのかもしれません。