2021.09.30

ニジンスキーの呪い

ニジンスキーがデビュー戦から無敵の連戦連勝街道を真一文字に走り抜き、クラシックシーズンに突入しても英2000ギニー、英ダービー、愛ダービー、古馬が相手のキングジョージ6世&クイーンエリザベスS、そして勢いのままに英セントレジャーまで無傷の11連勝で三冠達成の偉業を成し遂げたのは、およそ50年前の1970年でした。そして北国カナダ生まれの不世出の名馬は、その50年前の1920年に創設された凱旋門賞へと歩みを進めます。

北端の地でノーザンダンサーとその後継を育て上げた伝説的生産者エドワード・プランケット・テイラー、後にクールモアとのコラボレーションでサドラーズウェルズなどノーザンダンサー最良の一族を世に送り、現代競馬を牽引するエイダン・オブライエン師へとバトンを繋いだアイルランドの歴史的名伯楽ヴィンセント・オブライエン師の協業の結晶として不滅の光彩を放ち続けるこの名馬は、不覚にもロンシャンのゴール前でササフラに首だけ敗れる不覚をとります。長距離のセントレジャー2900mを疾走した疲れが残っていたのだろう、ともっぱらの下馬評でした。これを機にセントレジャー勝ち馬の凱旋門賞制覇が、バタリと途絶えます。今では2900mのセントレジャーと2400mの凱旋門賞は、そもそもが、それぞれ異種カテゴリーに属した別のレースであり、それを走り切る能力も異なるポテンシャルが必要なのだと考えられるようになっています。

今年のセントレジャー馬は凱旋門賞の有力馬の一角と高い評価を得ているハリケーンレーンでした。彼は英ダービーとキングジョージ6世&クイーンエリザベスSをぶち抜いたアダイターと同じフランケル産駒で、同馬主のゴドルフィン、同厩舎チャーリー・アップルビー調教師の管理というところまで瓜二つのチームメイトです。デビューからダービートライアルのG2・ダンテSまで4連勝、ダービーは少し仕掛け遅れもあってアダイヤーの 3着に敗れましたが、その後は愛ダービー、パリ大賞、セントレジャーとG1を3連勝して通算7戦6勝とケチのつけようがない戦績です。重箱の隅を敢えて突くなら、全戦が同世代対決であり、古馬との手合わせが未経験な点でしょうか?

しかし、アダイヤーやセントマークスバシリカ、牝馬のスノーフォールなど同期生たちは次々と古馬の壁を撃破しており、今年の3歳世代のレベルは例年以上に高いと言って良さそうです。鞍上のジェームズ・ドイル騎手はテン乗りということになりますが、若駒の頃から調教で手の内に入れて気心の知れたパートナーですし、主戦ウィリアム・ビュイック騎手に勝るとも劣らない腕達者で何の心配も要りません。ジンクスは破るためにあるはずです。果たして半世紀を超える歳月を経て、不世出の名馬ニジンスキーの“呪い”は解けるのでしょうか?