2021.09.27

肉を斬らせて骨を断つ

剣豪小説などに登場する必殺技に「肉を斬らせて骨を断つ」という奥義が登場します。自分も相手の一太刀を浴びるリスクを覚悟して懐深く入り込み、一撃で骨を断ち斬る瞬殺剣法です。似たような技にボクシングのカウンター戦法を思い出しますが、いずれにしろ「倒すか?倒されるか?」緊張をはらんだ一瞬の勝負は、ハラハラドキドキ、見るものの背筋をシャンと伸ばさせるようなスリリングな感動を伝えてくれるものです。

昨日の中山G2オールカマーは、このカウンター走法の免許皆伝を自他ともに認めるウインマリリンが登場しました。この馬はいつもライバルたちの懐に飛び込むように果敢に先行して、レースづくりの主導権を厳しく争うばかりではなく、先行馬には苦しいはずの直線の坂で、もう一度伸びて死中に活を求める一撃を繰り出す古今無双のカウンターパンチャーです。この日のオールカマーを含めて名物の急坂上で勝負を決する中山では、G2を2勝を含めて5戦4勝と得意中の得意にしています。長い直線の先に心臓破りの坂が待ち構える東京でも、この娘はオークスで2着に健闘し、トライアルのG2フローラSを勝っています。先行馬なのに、坂を利してライバルを倒す秘術を持つ稀有なタイプと言えそうです。

昨日もG1馬レイパパレを含めた強力な先行陣と先を争いつつも、冷静に戦況を読んだまでは良かったのですが、直線入り口で進路を塞がれる大きな不利に見舞われました。普通なら「ジ・エンド」でしょう。この死に至るようなピンチにも動じないがウインマリリンの凄いところです。若武者・横山武史騎手も落ち着いて捌いてくれたのですが、マリリンの肝っ玉の座り方は半端じゃありません。大外から大捲りを狙ったG1馬グローリーヴェイズも寄せ付けず、坂上で必殺パンチを繰り出し1馬身半突き抜けた「肉を斬らせて骨を断つ」秘技には、惚れ惚れさせられました。

ライバルの懐深く入り込む秘技には、避けられないリスクがいくつもポッカリと口を開けています。位置どりを一つ誤れば、馬群で揉まれ込み競馬にならないリスクも付き物でしょうし、競り掛けられて暴走ペースに巻き込まれる危うさとも紙一重ですね。こうしたハラハラドキドキのスリリング極まりない綱渡りのような競馬に、敢えてチャレンジしてくれるウインマリリンのレースを心待ちにするファンも少なくないのでしょうね。