2021.09.15

バリードイルの大誤算?

世界のビッグレースでファンを夢中にさせるクールモア所有の馬たちは、その専属であるエイダン・オブライエン調教師が率いる厩舎に入り、アイルランド南部のバリードイル調教場で有能なサラブレッドとして必要な訓練を受けます。先代のヴィンセント・オブライエン調教師が発見し開設したバリードイルは、なだらかな平原地帯にありながら複雑な地形から、サラブレッドづくりには理想的な水や土や草に恵まれていました。その後ヴィンセントは、サラブレッドビジネスの革命児ジョン・マグナーやサドラーズウェルズの馬主でもあったロバート・サングスターとともにクールモアを創設し、積極的な投資を重ねながら近代的で科学的な調教施設バリードイルを築き上げました。ヴィンセントの引退を受けて、後継専属調教師に抜擢されたのが、先代と名前が一緒でも縁戚にはない若き日のエイダン・オブライエンでした。1995年のことですが、以来27年間でバリードイルの調教馬たちは今日までに382ものG1レースを勝ちまくり、今年も通算24度目の愛チャンピオントレーナーを確実なものにするなど王座を譲り渡す気配はありません。

先週末、アイルランドでは首都ダブリン郊外のレパーズタウンとカラ競馬場で1年の総決算となる「チャンピオンズデー」が開催され、フランスでは凱旋門賞と同じパリロンシャン競馬場を舞台に「トライアルデー」が行われました。いよいよ2021年の競馬も大詰めに近づいて来たようです。その華やかなステージに欠かせないのが、世界をリードするサラブレッド集団クールモアに所属するスターホースたちです。ご多聞に漏れず先週末も各競馬場の主要レースでは彼らが本命馬に指示されていました。ファンの多くは、当然のようにバリードイル軍団が白星を積み上げ、G1勝利数をさらに伸ばすものと信じていました。

しかし現実はファンの期待を無惨に裏切るものでした。勝ったのはレパーズタウンのG1愛チャンピオンSを一刀両断に斬り取ったセントマークスバシリカだけ。日本のみならず世界中のファンから熱い視線を注がれていたG1ヴェルメイユ賞のディープ娘スノーフォールは、僚馬のラビットが速い流れをつくれず上がりの競馬となって脚を余して2着に敗れる波乱でした。勝利の味を思い出させようとカラのG2ブランドフォードSで確勝を期したラヴはゴール前の首の上げ下げで4キロ差の斤量が応えたか短アタマだけ遅れを取る無念の敗北でした。

現時点で来年のダービーの本命候補に推されているポイントロンズデールはカラのG1ナショナルSで人気を集めましたが、思わぬ2着に敗れています。日本人馬主が共同所有するブルームの全弟で、日本からの声援も多かったのでしょうが、良い日もあれば悪い日もある、それが競馬なのでしょう。この週末はどのレースも誤算続きだったようですが、しかしいずれも力負けとは思えない内容だったと思います。オブライエン師のたぐい稀な分析力と戦略力、世界一級の腕利きスタッフによる調教力は目標レースにキッチリ照準を合わせてくるはずです。バリードイルの底力を見直すべきでしょうね。