2021.09.13
“自縄自縛”の悲劇的敗戦
G1街道を圧勝続きで3連勝して来たスノーフォールのヴェルメイユ賞は力負けではなく、3頭出しと万全の態勢で臨んだはずのエイダン・オブライエン厩舎(バリードイル)勢の微妙な戦略ミスが主たる敗因でしょうね。ラビット役を買って出た僚馬ラジョコンダがハナを切ると、2番手のインにオリビエ・ペリエを鞍上に招聘したテオナが付けますが、少し掛かり気味なのかスムーズさを欠くフットワークが気になります。しかしそこへ馬群から離れた大外を回ってバリードイルのもう1頭ジョアンオブアーク(フランス語読みでジャンヌダルク)が上がって来て2番手の外に。テオナのオリビエはこの2頭がつくるポケットに馬を入れ、難なく落ち着かせるとジッと内で死んだフリ。ペースがまったく上がらないまま流れ、隊列は動かず、中団から後方に位置したスノーフォールや末脚自慢のフィロメーヌなど人気馬は身動きが取れない状況に陥ります。ノーザンファームの吉田勝己さんが所有するアンカルヴィルもこの一団でした。
レースは直線500mの上がりの競馬に持ち込まれますが、楽をして余力を残して来た先行勢の脚は衰えません。ラスト200mで馬群を割ってテオナが先頭に躍り出ると、その外から16馬身半差の驚愕のゴールを突き抜けたスノーフォールとランフランコ・デットーリの英オークス圧勝コンビが飛んできますが、ラビットのラジョコンダが3着に粘るような流れでは手の施しようもなく2着に上がるのが精一杯だったようです。レースの上がりは、ラスト3ハロンが12秒78-10秒83-11秒66=35秒27と推定されます。スノーフォールは恐らくハロン10秒台の“神脚”を2ハロン連続して使っています。これは馬も鞍上も攻められません。世界の超名門エイダン・オブライエン厩舎が自ら描いた戦略に自らはまって不覚を取った、いわば“自縄自縛”の敗戦だったと言えそうです。(総帥エイダンと主戦ライアン・ムーアはアリルランドでシーズンを締めくくるチャンピオンズデーを戦っており不在だったのですが)。それにしても、競馬はいろいろなことが起こります。こうした皮肉な結果も競馬のうちなのでしょうか?
この日のパリロンシャン競馬場、ヴェルメイユ賞でディープ娘スノーフォールに挫折の苦さを味合わせたオリビエ・ペリエ騎手の健在ぶりは“感動もの”の素晴らしさでした。また逃げた経験がないディープポンドを逃げさせてG1馬がゴロゴロしている後続を完封したクリスチャン・デムーロ騎手も見事な手綱さばきでした。フランスで活躍するジョッキーのレベルは、たぶん世界一と言って良いのではないでしょうか?こうした歴戦の猛者連中と熾烈な戦いを繰り広げていたクリストフ・ルメール騎手が日本でトップを張るのも当然と言えば当然でしょう。
さあ、長かった凱旋門賞への道も、いよいよ本番を残すのみとなりました。フォア賞を父キズナとともに父子制覇したディープポンドのデムーロ騎手は昨年ソットサスで栄光を味わった凱旋門賞ジョッキーです。日本ファンにもお馴染みのペリエ騎手は、凱旋門賞4勝というレジェンドジョッキーとして鳴らせています。ディープ娘スノーフォールは、雪辱に燃える凱旋門賞6勝のデットーリか?エースのムーアか?いずれが鞍上でも好勝負は間違いがないでしょう。また、英ダービー&キングジョージ馬アダイヤー、愛ダービー&英セントレジャー馬ハリケーンレーンと春秋に富む成長盛りの大砲二騎を擁するゴドルフィン軍団からも目が離せません。G1シーズンも間近な日本も含めて、競馬が楽しくて楽しくて堪らない季節が始まります。