2021.08.25

マイノリティ種牡馬の勲章

ご存じのようにチャンピオン種牡馬の勲章を争うリーディングサイアーは、産駒たちが稼いだ獲得賞金の合計額で決められますが、それ以外にもJRAでは、勝ち上がり頭数や合計勝利数、アーニング・インデックスなどの指数を基準として種牡馬の優劣を俯瞰しています。日本の場合、獲得賞金と勝ち上がり数、勝利数などはほぼパラレルな関係に反映されますが、海外では大きく食い違っている場合もしばしばです。それは賞金の配分方法の違いが大きな影響を及ぼしているからです。

日本は世界を見渡してもそもそもが高水準の賞金に恵まれ、加えて「上に厚く下にも厚い」各国のホースマンが羨む基本構造を誇っています。海外の場合、G1を頂点とする重賞レースに高い比率で配分される「上に厚く下に薄い」構造になっています。分かりやすいのはフランスのケースで、凱旋門賞の賞金が飛び抜けて高額なため、リーディングサイアーの座は彼らの指定席になっています。リーディングジョッキーやリーディングトレーナーも同様に獲得賞金と勝利数が必ずしもリンクしないため、日本のファンは少なからず“違和感”を覚えることも。イギリスを例に取ると、アイルランドから遠征のエイダン・オブライエン師は当地ではわずか9勝に過ぎないのに、堂々151勝をマークしている地元のマーク・ジョンストン師を賞金額で上回り、リーディングの上位争いに加わっています。フランスでもオブライエン師は、クラシック二冠のセントマークスバシリカなどが5勝を上げていますが、賞金では86勝のアンドレ・ファーブル師、115勝のジャン-クロード・ルジェ師に続く3位を踏ん張っています。賞金と勝利数がほぼリンクする日本では考えられない光景です。

ディープインパクトが獲得賞金、勝ち上がり頭数、合計勝利数の“三冠”を独占している日本ですが、“アーニング・インデックス”だけは天才種牡馬の手に余るようです。この指数は、出走全馬の平均獲得賞金を1として、各種牡馬毎に産駒の獲得賞金指数を算出したものです。少ない産駒数で手堅く稼ぐのが指数アップの秘訣なのでしょう。ある意味で海外繋養の“マイノリティ種牡馬”の勲章と言えそうです。

この分野で現在、目覚ましい活躍を見せているのがポイントオブエントリーという生まれも育ちも繋養地もアメリカという新進種牡馬です。グラス(芝)ホースとしてG1を5勝した一流馬らしく、日本に送り込まれた子どもたちは日本の芝にも抜群の適性を示し、先日はロータスランドがG3関屋記念を鮮やかに抜け出して重賞初勝利を飾りました。角居勝彦師の勇退で辻野泰之厩舎に移って来た馬で、先師にも辻野師にも何よりのプレゼントでした。サマーマイルシリーズの対象レースですが、既にリステッドの米子Sも勝っており、ボーナス賞金付きのシリーズ優勝を確定させました。馬主孝行なオウマさんですね。さらに先週は、札幌で産駒のエアサージュが2600mの日刊スポーツ杯を逃げ切り“菊花賞切符”をほぼ手中にしました。また母国でも関屋記念前日のアーリントンパークでポイントミーバイがミスターディーS(旧セクレタリアトS)でG1初勝利を上げました。海の向こうでもこちらでも勢いの良さはクライマックス!もはや一介の“マイノリティ種牡馬”と侮れません。