2021.08.24
来年のダービー馬
まだ夏の盛りというのに、見通し不透明な来年の話などをすると「鬼に笑われる」と古人は戒めてきました。しかしこの格言、競馬好きには洋の東西を問わず通用しないようです。日本では「ダービーからダービーへ」を謳い文句に、その年のダービーが終わると、翌週から次の年のダービーを頂点とする新馬戦が早速スタートするのが恒例となっています。ヨーロッパの競馬愛好家はもっとセッカチで、更に早い時期から2歳戦が始まり、イギリスの例だとダービーの2週間後には多様な番組構成の2歳重賞を満載したロイヤルアスコット開催が華やかに幕を開けます。この時点でブックメーカー各社からは出走各馬のクラシックにおけるオッズを提示され、伝統的な競馬好きはこれと目星をつけた馬の成長を見守りながら、向こう1年の生活を楽しみます。
早いものでロイヤルアスコットからニューマーケットのジュライ開催、グローリアス・グッドウッド、ヨークのイボア・フェスティバルとファン注目の名物開催の数々を重ね、アイルランドでは早々と2歳G1も行われる中で、現状はまだ早熟血統の馬たちが優位を誇っているのですが、徐々にクラシック有力馬が絞り込まれつつある時期になりました。先週末にはアイルランドのカラ競馬場で出世レースとして名高いG2・フューチュリティS (芝1400m)がおこなわれています。ここ最近でもアンソニーヴァンダイク、ちょっと前にはニューアプローチと翌年のダービー馬を輩出し、グレンイーグルスとチャーチルは英愛両国の2000ギニーを制覇しています。
その縁起レース、今年は4馬身余り後続をちぎったポイントロンズデールという新星が現れました。彼はこれで4戦4勝と負け知らず。ブックメーカー各社はこの馬の能力の高さに脱帽し、2000ギニーが8倍、ダービーは7倍とこの時期にしては飛び抜けたオッズ提示で2022年のヒーローに指名しました。父オーストラリア、母スウィープステイク、名門エイダン・オブライエン厩舎の管理馬というのは、日本のキーファーズの松島正昭さんが共同所有しているブルームと全く同じです。ブラックタイドとディープインパクトではありませんが、兄弟が競ってお互いの価値を高めあうような関係が生まれると嬉しいですね。
一方、イギリスのサンダウン競馬場では同じ週末の土曜日にこれも“出世レース”の誉れ高い一戦がファンを大喜びさせました。G3・ソラリオS (芝1400m)がそれで、14年の欧州年度代表馬に輝いたキングマン、欧洲調教馬として堂々BCクラシックを制圧したレイヴンズパスなどを送り出しています。キングマンは、亡きガリレオ後継種牡馬の大本命フランケルを擁する名門ジュドモントファームの“飛車角”と評価が鰻登り。日本でもNHKマイルCのシュネルマイスターが活躍しています。レイヴンズパスもタワーオブロンドンを出すなど、キングマンとともに日本適性の高さは出色です。
その名物レースを圧勝したのがリーチフォーザムーン。見た目に切れるという印象はないのですが、一完歩ごとにジワジワ差を開く持久力の確かさ、気がついてみたら4馬身も前にいたパフォーマンスは本物のステイヤーのそれです。同名の牝馬にアグネスデジタルの半妹リーチフォーザムーンがいましたが、こちらはエリザベス女王が所有する牡馬ですね。父シーザスターズ、母ゴールデンストリーム、その父サドラーズウェルズの血統で、レースぶりから見ても『距離は延びてもドントコイ!』の印象が強いですね。ブックメーカーの分析家もそのあたりを買っているのでしょう。ダービーオッズは11倍で、前出ポイントロンズデールに続く2番人気に抜擢されました。来年は女王が即位70周年を迎えられるアニバーサリーイヤー。女王初のダービー戴冠でお祝いできるといいのですが。