2021.08.17
ディープインパクト系の台頭
新馬戦のスタートから2カ月が経過して8月の声が聞こえると、主に勝ち上がり組を対象とするオープンレースが編成されるようになりました。その口開けとなった8月7日(土)の新潟・ダリア賞(芝1400m)は、好位から抜け出しを図るベルウッドブラボーがコムストックロードとの叩き合いを制しました。評判の高い新種牡馬シルバーステートの血を引く2頭のワンツーフィニッシュでした。この賞金を加算して、2歳リーディング全体のトップの座を固めたシルバーステート。やや短距離に偏っていた成績も徐々に幅を広げて、しばらくは安心して見ていられそうです。
シルバーステートは、藤原英昭調教師と福永祐一騎手の“ダービー請負コンビ”の下で将来を期待される逸材でしたが、3歳クラシックシーズンを全休するなど故障がちなのが玉に瑕。結局、通算5戦4勝と底を見せないまま屈腱炎を再発した“未完の大器”は、父ディープ在命の2018年から、日高の優駿スタリオンステーションに種付料80万円で供用されます。日高の生産者の皆さんが大喜びしたのは無論でした。産駒デビュー前から小刻みながら年々評価を上げて、今年は150万円と倍増近い勢いを誇示しています。先月のセレクトセールでは、ノーザンファーム生産の1歳牡馬が“ショウナン”の冠名でお馴染みの国本哲秀さんに税込2億8600万円の高額で落札され話題を呼びました。評判はまさに“鰻登り”です。日本馬産界の“総本山”社台スタリオンステーションから招聘のオファーが届く可能性もありそうで、もしそうなれば“ポスト・ディープ”の大本命は、この馬で決まりかもしれませんね。
それから1週間、先週土曜の小倉・フェニックス賞(芝1200m)は、ナムラクレアが新馬 3着からの折り返しで経験を生かしてアッサリ抜け出し初勝利。ディープ系ミッキーアイルの血でした。ミッキーアイルは今年が2世代目の新進サイアーですが、昨年も産駒のメイケイエールがG3・小倉2歳S、G3・ファンタジーS、G2・チューリップ賞と重賞3勝の大手柄を立てました。白毛の祖シラユキヒメの曾孫で、桜花賞馬ソダシは同じファミリーの出身。この馬は父ミッキーと同じ鹿毛に出ましたが、気性難を克服できれば更なる大仕事が期待される逸材です。
北の大地でもディープインパクトの孫たちが大車輪の働きを見せてくれました。札幌・コスモス賞は、函館1200m戦を 3戦して2着、2着、6着だったトーセンヴァンノが、距離延長を味方につけて初勝利を飾っています。父ヴァンキッシュランはディープインパクトとガリレオの娘の配合から生まれた世界が認めるクラシック血統の持ち主で、この組み合わせからは英2000ギニーのサクソンウォリアー、英オークス16馬身差、愛オークス8馬身半差の人知・想像を超えるパフォーマンスで今年の凱旋門賞の主役に抜擢されたスノーフォールなど国際的な成功を収めています。
サプライズはこれで終わりません。日曜に公営・盛岡競馬場で開催された芝1600mの重賞・若鮎賞を、ギャレットというヴァンキッシュラン産駒が勝利。この馬も初勝利が重賞と規格外れのパフォーマンスを見せました。ヴァンキッシュランは、島川隆哉さんが築き上げたエスティファームのプライヴェート種牡馬として大事に扱われています。母レッドヴォーグはG3・シンザン記念で後の三冠馬オルフェーヴルと桜花賞馬マルセリーナをまとめて負かした重賞3勝馬レッドデイヴィスの1歳下の半妹で、東サラゆかりの牝系です。馬格に恵まれた大型牝馬で競走馬としては脚部不安に泣いたものの、繁殖牝馬として花開いたのは何よりでした。逆にたどれば、ヴァンキッシュラン、ミッキーアイル、シルバーステート、これらディープインパクトの血を未来に橋渡ししてくれる後継馬たちが、ディープインパクト亡き後の日本の競馬を力強く牽引してくれる日もすぐそこに来ています。