2021.08.03

ディープの血は牝馬優勢?

牧場など生産界を中心に“フィリー・サイアー”という言葉がしばしば使われます。「優秀な種牡馬だが、良駒が牝馬に偏っている」という、ある意味“残念な”種牡馬たちがそう呼ばれます。牧場さんにとってみれば、産駒の取引価格は一般的に牡馬の半値程度で、牧場に戻って人気種牡馬ともなれば年に100頭でも200頭でも種付け可能ですが、繁殖牝馬は年に1頭にしか血を伝えられません。牡馬誕生なら“赤飯”で祝い、牝馬には素っ気なくなりがちなのも気持ちは良く分かります。サラブレッドの進化の歴史を紡いでいくのは、淘汰され厳選されたサイアーラインが重要なのは無論ですが、粛々と積み重ねられたファミリーラインの底力の爆発であることを、誰よりも骨身に染みて知るのは生産者の皆さんだからです。

今や世界を股にかける大種牡馬・ディープインパクト。成績優秀な馬を順に並べると、牝馬が上位に来る傾向が色濃く感じられます。活躍の証しである獲得賞金の比較でもジェンティルドンナ、グランアレグリアと牝馬が1-2を占めています。だからといってディープインパクトを単純に“フィリー・サイアー”と定義付けることはできませんが、海を越えてスノーフォールという歴史的傑作が登場した現実を目の前にすると、牝馬に何らかのアドバンテージが味方しているのでしょうか?

牡牝混合レースで、同世代の牡馬に対して日本では牝馬2キロ減が相場ですが、ヨーロッパでは牝馬1.5キロ減と少しハードルが高くなっています。日本だけで勝ちまくっているのなら、セックス・アローワンス(特典)の歪みと片付けられるでしょうが、馬場状態や負担重量など競走条件に関わらず、水準を超えた領域で傑出した底力を牝馬が発揮するのは、エリザベス女王のクラシック馬ハイクレアを牝祖に、お腹に仔を宿したままG1を勝った母ウインドインハーヘアを経由してディープインパクトへと伝えられた“牝馬の底力”が何らかの働きをしているのでしょう。

さて、前置きが長くなりましたが、先の日曜・新潟5Rの新馬戦をルージュスティリアが幸先よく勝ち上がってくれました。新馬に乗せたら右に出る者がいない名手・福永祐一騎手に舌を巻かせるほど抜群のスタートセンスは天性のものでしょう。前半39秒0-39秒3の超スローペースにも、福永騎手がすぐに馬を下げて前に壁をつくり、我慢強く折り合う賢さは尋常ではありません。直線で他馬が失速するのが案外に早く、先頭に押し出されたのは想定外でしたが、ハロン10秒台の脚を2ハロン続けて後続を完封しました。藤原英昭調教師が見込んだように能力の高さは間違いなさそうです。牝馬が強いディープインパクトの血筋にまた一頭、非凡な牝馬が現れたと言っていいでしょう。