2021.07.29

カテゴリーとしての千直

「競馬も楽しめる園遊会」と呼ばれ、人生の様々な楽しみをギッシリ濃密に詰め込んだような“グロリアス・グッドウッド”の話題をお届けしています。
昨日のマイル頂上決戦G1サセックスSは、牝馬のアルコールフリーが直線一気の差し切りで17年ぶりとなる牝馬勝利を飾りました。歴代優勝馬にフランケル、キングマン、ヘンリーザナヴィゲーター、ロックオブジブラルタルなど歴史的名馬がズラリと名を連ねる伝統のレース、アルコールフリーはこれでG1は3勝目ですから立派なものです。今年の欧州3歳馬は強いというお話をしましたが、ここも3頭出走した3歳馬が古馬勢をなぎ倒しての1-2-3!勢いが止まりませんね。

さて、明日金曜4日目の注目レースは距離1000mのG2キングジョージ、来月のヨーク競馬場で行われるG1ナンソープSの最重要前哨戦に位置付けられています。ここは同レース5連覇の偉業にチャレンジする7歳馬バターシュと無念の降着でG1メダルはお預けとなった3歳馬ドラゴンシンボルの一騎打ちムードが高まっています。バターシュは千直スペシャリストとして勇名を轟かせています。今季は軽度の骨折で使い出しが遅れ、前走は不覚を取りましたが、一叩きされたここは負けられない一番です。ドラゴンシンボルは日本人オーナー窪田芳郎さんの勝負服が良く似合います。G1コモンウェルスCは1着入線しながら微妙な進路妨害を取られ残念な2着降着。初の古馬挑戦となったG1ジュライCも一歩足りず2着に泣きましたが、両レースの1200mから千直への距離短縮で持ち前のスピードに威力を増しそうです。距離1000mという特殊な分野に、なぜ、こうしたスターホースが次々と出てくるのか?日本ファンには少し理解しにくいかもしれません。

日本では先週行われたG3アイビスサマーダッシュが、距離1000mのスーパースプリント分野における唯一の重賞レースとなっています。G2もなければ、G1レースも存在せず、独立したカテゴリーとして未だ確立されていないというのが現実です。ところが向こうではかなり様相が違うようです。何しろ、イギリスはロイヤルアスコット開催のキングズスタンドS、ヨーク・イボア開催のナンソープS、アイルランドにはレパーズタウンのフライングファイブS、フランスでは凱旋門賞当日のロンシャンで挙行されるアベイユドロンシャン賞と合計4つのG1レースが組まれています。無論それぞれにリステッド、G3、G2と前哨戦ピラミッドが整備されていますから、千直に特化して使われる“スーパースプリンター”が活躍する舞台に事欠きません。

カテゴリーとして確立されている分、いろいろなフィールドで日本では見かけない特徴も生まれてきます。バターシュはノーザンダンサー系の短距離適性を発展させているダークエンジェルの血を引いています。2歳戦に強く、古馬になってスプリンターとして大成する産駒も輩出し、今やリーディングサイアー争いの上位常連として存在感を増しています。ドラゴンシンボルの父ケーブルベイはインヴィンシブルスピリット系のスプリンターですが、新種牡馬チャピオンに輝くなどダークエンジェルの背中を追っています。こうした血統が活躍するのも、日本では特殊系列に属する千直スーパースプリンター分野が、堂々たる独立したカテゴリーとして確立されているからでしょうね。競馬の成長とか発展とか、簡単な仕事ではないようです。