2021.07.13

戦国時代の始まり?終わり?

初夏の風物詩・セレクトセールの今年は、初日の1歳馬セッション、2日目の当歳馬セッションともに史上最高売上高をマークし、内容的にも期待の種牡馬がひときわ熱心な支持を集めるなど、質量ともに充実した大盛況のうちに幕を閉じました。ご同慶の至りです。しかし今年はディープインパクト、キングカメハメハの大黒柱を二本もろとも失い、さらに後継に期待されたハーツクライも現当歳をラストクロップに、種牡馬生活から卒業し悠々自適の生活に入ります。サンデーサイレンス・ディープインパクト父子が四半世紀にわたって一大帝国を築き上げて来た“パクスジャポニカ”(平穏な時代)が終焉を迎え、“種牡馬戦国時代”が幕を開けると考える方も少なくなかったようです。

確かに02年のサンデーサイレンス没後、セレクトセールの落札額は存外に伸び悩む時期が続きました。06年には“窮余の一計”で創設年以降は廃止されていた1歳馬セッションを復活させます。これは馬主さんにとっても当歳時よりは1歳時の方が馬選びのリスクが遥かに少なく歓迎され、今では1歳馬セッションが売上貢献ではリードを保ち続けています。しかし“サンデーサイレンス・ロス”の衝撃はサラブレッド市場を直撃して、真の復活はディープインパクトの登場を待たねばなりませんでした。

ご記憶でしょうが、昨年暮に社台スタリオンステーションは、ディープ、キンカメ亡き後の種付料ラインアップを発表しました。ご存じのように、ロードカナロアが1500万円でトップサイアーの座に就き、脇を1000万円のキズナとエピファネイアで固めトップスリーとします。少し伸び悩み気配もあった1000万円のドゥラメンテと800万円のモーリスは張出大関といったポジションで半歩下がった格好でした。今回のセレクトセールは初日のトップとトリにディープインパクトのラストクロップを登場させたように、ディープの長年の功績と馬主諸兄の愛顧に感謝を捧げ、偉大な存在の有終の美を飾る「ラストインパクト」を盛り上げることにありました。この趣向が大成功を収めるとともに、一方では半年前に発表した新たなラインアップの市場による承認を獲得するという目論見も着実に達成したように見えます。彼らの“目利き”ぶりは想像を超えるものがあります。

見た目には関係者が描き・実践してきたシナリオ通り進んでいるようにも映ります。しかし戦いはこれで終わりではありません。最後にして最も厳しい競馬場での戦いに決着がつかない限り終わりません。むしろ始まったばかりです。長い目で、それらの行末をしっかりと見定めたいものです。